【中級者脱却】中国語難発音① ü(ウムラウト u)理論編

中国語の発音上級者になるためシリーズ、スタート!

こんにちは、チャイ語とミャンマー語をマスターしたいチューメンです。

さて、ここ2-3週間Twitterやその他のブログを見ていて、文法書より詳しいサイトを作ったり、俺には死んでもできない図解でわかりやすく言葉を類別したりして、ほぇ~すげ~というものを見てきました。

同時に思いました。俺にできることはなんだろう?と。

根気もないし、四字熟語的な知識もないので、そこで貢献することは難しい。でも、英語・中国語そしてミャンマー語でも圧倒的に重視している発音なら貢献できるかも!と思い至りました。

ということで、中国語歴そろそろ20年になるチューメンが、中国語の発音において、基礎を抜けた中級者がさらにレベルアップして上級者になっていくために、はまりやすいワナとその改善方法について記事を書いていきたいと思います。

記念すべき第一回は ü(ウムラウト u)です! 

 

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そもそもウムラウトって何?

さて、そもそも論なんですが、ü のことを「ウムラウトの u」と表現しますが、で、ウムラウトって何?と思ったことありませんか?私も習慣で使っていましたが、改めてwikipediaで確認しました。

ウムラウト(独:Umlaut)とは、ゲルマン語派のいくつかの言語において見られる母音交替現象。

ウムラウト記号は、主に円唇・後舌で発音される母音(a、o、u)を、円唇・前舌で発音しようとする場合(ä、ö、ü)に用いられ(中略)、現代中国語のピンインでは、[y] 音の表記に ü が用いられる。

要するに、「舌を後ろの方に置いて(後舌)発音する u を、あえて舌を前の方に置いて(前舌)発話する」ということです。

「いやいや、要されてもわからんのですが…」

…ですよね。

 

なぜ日本人にとってウムラウトはとっつきづらいのか?

なぜわかりづらいかと言うと、日本語の母音アイウエオは、口の形と発話する音が全部わかりやすく一致する言語だからです。唇の形が「ア」、出す音も「ア」、そして表記も「ア」、それが日本語の「ア」です。だから、そもそもズレることがある、という概念が理解しづらいのです。

でも、他の言語では割と普通にズレます。ドイツ語の ä は「ア」ではなく「エ」、 ö だって、「オ」の口で発話は「エ」です。英語の æ なんかも、「エ」の口の形で、「ア」と言われますよね。

語学以外の趣味でいろいろな言語に触れる機会が多いので感覚でわかるのですが、ドイツ語のウムラウトの発音もできない人が多い。英語の æ もみんな苦手ですよね。そもそもの概念が違うのでそりゃそーですね。

‌なぜこの母音交替現象が起こるのかは、研究者ではないので知りません。しかし、口の形と発話する音がズレることは普通にあるんだ、ということを知って、頭を柔らかくしておいてもらえると、後々楽になると思います。

 

ü(ウムラウト u)は中国語にはあるの?

wikipediaでは主にゲルマン語派で出てくるとありますが、中国語にもあります。

他の母音との組み合わせで、4つの ü(ü/üe/üan/ün)がありますが、基礎となる2つである ü と üe をここで学習しましょう。

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素人臭い表ですみません…。

単母音で6つ、二重母音(厳密には2個の単母音の羅列)も6つで、合計12個です。

その内、全ての基本となるのが yu(ü)ですね。ウムラウト記号が明記されるものと隠されるものがあるのはみなさまご存知だと思います。

 

で、ü って、どういう発音なの?

さて、中国語の ü の発音ですが、結局どうやって発音するのかといえば、結論から言えばシンプルで下記の通りです。  

◆ ü の発音方法
日本語の『ユ』の口の形で、『イ』を発話する。

 

うーん、地平線の彼方から「そんなこと教科書には全部書いてあるし、知っとるわボケ!」という声が聞こえてきます…。

 

本当にできてますか?

でも私の感覚的には、日本人はこの発音、本当に苦手です。体感ですが、初心者はもちろん、中級者でも90%以上ができてないと思います。なぜでしょうか?

それは、上述したように、口の形と発話する音がズレることがむしろ正解なんだという理解に至っていないことが1つ。

もう1つは、その理解に至っていない状態で、“優しい”先生が「中国語の ü は日本語の『ユ』みたいに発音すればよいですよ」という学習者を慰めるような誤った説明が広く伝わっているからだと私は思っています。

中国語学習界もビジネスがあるので、学習者に優しくというのは理解できますが、それは「優しさ」ではなく「甘やかし」で、はっきり言って、 その甘やかしが上級者へのレベルアップを阻害しています。もはや💩です、害悪です(すみません…)

 

日本人によくある ü の発音間違い

実際に、日本人の ü の発音によくある間違いを書いていきます。おそらく、多くの人に心当たりがあるはずです。

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この赤文字の発音は完全に間違いです!

「中国語の ü は日本語の『ユ』みたいに発音すればよいですよ」という甘やかしのワナにはまっている日本人が多すぎる!なんでや!

 

ü の発音はどうする?

「中国語の ü は日本語の『ユ』みたいに発音すればよいですよ」という言葉が罪なのは、あながち間違ってはいない点です。でも、間違いなくあとひと押しが「足りない」のです。

では、ネイティブの発音に近づけるためには、何が足りないのでしょうか?さきほどの説明をもう少し詳細に書いてみます。 

◆ ü の発音方法(詳細)
1)「ユ」の口の形を作る。もっと言うと、口笛を吹くような形ぐらい尖らせる(舌は後ろ側)
2)1の形をキープしたままにする(唇の緊張を解いてはいけません)
3)「イー」と発話する(舌が前に出る)

 

ü の発音のポイントは3つありますが、絶対に日本人が気をつけるべきポイントは2と3!断言します!

この2と3ができるかどうかが、この ü の発音がきれいにできるかの瀬戸際です。

実際にやってみましょう。

 

1)「ユ」の口の形を作る。

まず1ですが、「ヤユヨ」の「ユ」の口の形を作ります。普通ならこれで十分ですが、ときに唇が知らずに弛緩してしまう人がいるので、もっと極端に言うと、口笛を吹くぐらい唇を尖らせて緊張させるという理解でもOKです。

このとき舌は自然な形で、口腔の下側かつ後ろ側にあります。

 

2)1の形をキープしたままにする

次に2ですが、ここが肝の1つ目で、1で作った唇の形を1ミリも崩さずキープします。ここで唇の緊張を解いてはいけません。また、唇の形が崩れてもいけません。本当に1ミリも動きません。もし動いてしまうとしたら、それは唇が音に引っ張られてしまっています。

このときの唇の形は↓の形のはずです。

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3)「イー」と発話する

この2の形をキープした状態で、肝の2つ目!「アイウエオ」の中の「イ」を発話してください。「イー」という長母音で練習したほうがおそらくやりやすいと思います。

また、このとき舌は、1のときよりも口腔内の上の方にあがり、上の歯の横内側に接すると思います。英語のthの発音(θ/ð)のように上の前歯の裏につけてしまうと息が通らなくなるのでNGです! 

 

完成

ここまでの1-3がそろって初めて、ü の音、完成です!

しかし、日本人は1で終わっている人が本当に多い!繰り返しますがそれでは中途半端で、1を前提に、2と3があって初めて本当の ü の発音と言えるのです。

 

え、すごいしゃべりづらいんですけど?と思った方へ

そりゃそうです、上にも書きましたが、生まれて数十年ずっと「唇の形と、発話する母音が一致する言語」をしゃべってきたんですから、窮屈で当たり前です。物理的にもついていかないし、脳みそもつかれます。

でも、もしも ü の音に何か違和感を感じている人は、ぜひトライしてみてください。最初は本当に慣れないと思います。けれど、違和感を持ったまま進んでいくと、いつか伸び悩んでしまいますので。

ここまでいって信じられない人は、ぜひスラムダンク24巻を読んで、桜木花道のシュート2万本練習とその後の気づきを見直してください!(逆ギレ)

 

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余談:なぜ ü の正しい発音法が広まっていないの?

「そこまで自信持って言うのに、なんで日本人は ü の発音がそんなに苦手なの?」と思う人、いると思います。

推測が多分にまじりますが、しかしこの状況は仕方ないとも言えます。

日中国交正常化が1972年、そのときに20歳ぐらいだった学生が20-30年後に先生となって中国語を教えるわけです。それが1990-2000年代でしょうか。

かつては、生の中国語の音声は今ほど簡単には手に入らなかったと思いますので、文法は詳しくても発音が上手でない方が多かったのではないかなと思っています。で、自分が習ってないから、学生にも教えられないという循環。

今はニュースやドラマなど、教材には困らないので、段々と改善されていくと信じています。

 

【さらに上級者へ】ü の発音のゆらぎ

さて、ここまで ü の発音について見てきましたが、すでにできている人からすると、おそらく余裕の内容です。

ですので、ここでさらにもう1つレベルアップをしておきましょう。題して「ü の発音のゆらぎ」です。

 

ü の発音のゆらぎ

人間は現金なもので、例え歴史的にAとBが別物だったとしても、文字の統一などで表記されなくなると、段々と本来の形を忘れてしまうことが多々あります。

例えば、

  • 「闘」と「門」:今では同じ「もんがまえ」ですが、本来は闘は鬪「鬥:とうがまえ」と言われる別の部首です。
  • 「い」と「ゐ」:現代仮名遣いでは同じ「い」と発音しますが、本来は「い」は「い」、「ゐ」は「うぃ」と発音。紅(くれなゐ)とか田舎(ゐなか)。

これが、中国語でも起こっています。

結論から言うと、単母音の ü は、ウムラウト記号の有無に関わらず、原則きれいな ü を維持しています。

しかし、後ろに e がついた二重母音の üe は、開口母音である e に引っ張られ、かつウムラウト記号も消失しているため、ü であるという認識が薄れ、唇がやや弛緩する傾向があります。これが「 ü のゆらぎ」です。 

◆ ポイント
本来は ü のはずの音が、後ろの e に引っ張られて唇が弛緩し、またウムラウト記号が消失していることで本来は ü だったという認識もやや薄れ、u の音に近づく「ゆらぎ」が発生するときがある。

 

そのゆらぎをまとめたものが下記の表です。1つ1つ見ていきましょう。

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単母音

lü/yu/ju/qu/xuは、ゆらぐことはまずありません。ゆらいだら完全に別の母音になってしまうので。ですので、yu を「ユー」と発音したり、qu を「チュー」と発音したりするのは1000%間違いです。

nüだけは少し例外で、美女 měinǚ とか女性 nǚxìng と読むときに、結構「メイニュー」に近くなるときがあります。

本来この「メイニュー」という発音は、記事の序盤で説明した通り、間違いです。しかし、nという子音が関係していると(勝手に)思っていますが、やや「メイニュー」に近づいても許容される傾向があります。

しかし、6つとも、明確な u になってしまうのは絶対に間違いです。ですので、「メイヌー」はアウトです。

 

二重母音

問題はここからです。

二重母音も、ウムラウト記号が残っているか消えているかで、人間の「視覚」に訴える度合いが違います。その結果、「ゆらぎ」が発生します。

nüe/lüe は、やはり基本ラインは ü です。しかし後ろの e に引っ張られて、単母音のときより「ニュ・リュ」という発音が許容されます。つまり、lü を「リュ」と読むのは明確な間違いですが、lüe を「リュエ」と読んでも、大きな事故は起きません。

yue/jue/que/xueは、そのゆらぎがさらに顕著です。なぜなら、ウムラウト記号が消失しているからです。ウムラウト記号が消失し、さらに後ろの e に引っ張られ、だいぶ「ゆらぎ」が大きくなります。結果、それぞれ、「ユエ」「ジュエ」「チュエ」「シュエ」のような発音と非常に似通ってしまうのです。

 

ベストはやっぱりしっかりとした ü+e

もちろん、ベストは ü の発音をしっかりキープした二重母音を発話することです。

実験で、複数の中国人の友人に、 ü と u をあえて強調した xüe と xue を聞いてもらいましたが、反応は「違いはないと思う」「強いて言うなら前者が引き締まってクリアな感じがする」というものでした。 

◆ ポイント
ウムラウト記号が無く、かつ二重母音の場合、本来の発音が「ゆらぎ」、yue/jue/que/xueは、「ユエ」「ジュエ」「チュエ」「シュエ」の発音に近くなっても許容される傾向がある。
 

繰り返しますが、「ユエ」「ジュエ」「チュエ」「シュエ」の発音に近づいても大事故は起きないという意味であって、ベストは ü の発音を常にキープし、「üエ」「jüエ」「qüエ」「xüエ」と発音することであることは忘れずに!

さて、長くなってしまいました。次回は ü の実践訓練です!